古田十駕(酒盛正)の文学日記

古田十駕の文学日記

2023年12月5日 宗教の倒錯というミステリー。

八十七枚半。三ヶ月毎の定期検診。朝七時に出て今帰る。もう午近くなので午前中の仕事はせず、少し休んだあと午にしてから午後の仕事をする。昨日、文観を登場させたが、その人柄や教義をどう書くか迷いがある。病院への往き来のバスの中でもずっと考えてい…

2023年12月3日 熊と花瓶。

八十六枚。四つの史料を引き合わせた世良親王遺領についての解釈に齟齬があって、それぞれの原史料にあたって整合させるという手間があって、昨日書いたところに手を入れるところから今日の仕事を始める。こういう史料の拗れに歴史の真実が隠れているのでお…

2023年12月1日 ぼんやりとして鋭利。

八十四枚。人間の自己存在への認識は勝手主義なものらしい。今朝はずいぶん寝坊して、起き抜けにそんな思いが頭にあった。そういう価値観の根底が解体された状態では日常が送れないので、しばらくほんやりしてから着換える間に頭を切り換えて気分をととのえ…

2023年11月29日 冷えた朝の元気がないカラスの鳴き声。

八十二枚。昨日書いたぶんはやや書きすぎていたので没にして、二章の三分の二まで書き終える。ここからはできるだけ歴史の後追いのような記述は避ける。さてと、ちょっと身構える。二章の残り三分の一は後醍醐天皇の権力への執着を中心に書く。部分と全体の…

2023年11月27日 静謐。

八十枚。同年輩の著名人の訃報がめっきり増え、いつも何かしら喪中で身を慎んでいるような気分になる。空から狙っているライフル銃が毎日四千人くらいに一人の割りで撃っているのだからたまらない。毎日のことなので恐怖心が麻痺していて、ともかく出来るだ…

2023年11月25日 風菴主人吐息する。

七十八枚。世良親王が薨った元徳二年の晩秋、しばらく姿を見せなかった空如が赤坂へやってきて京の近況を伝えるところを今日書く。二章の半分あたり。物語のとば口。弱電流に触れているような感じ。 酒盛正の電子書籍 ↓ ↓ ↓ ↓ (表紙画像をクリック) books.ra…

2023年11月23日 この青空の下、人間であること。

七十六枚。先週「土」を読み終えて一昨日からケラーの「白百合を紅い薔薇に」を読み始める。正中、嘉暦、元徳と、正中の変以降の後醍醐天皇雄伏の期間を、南河内に拠点を持って何をしているのやらわからない正成の視点を離れてまとめて一気に書く。後醍醐天…

2023年11月21日 異常気象で昆虫の世界も大混乱。

七十四枚。主要登場人物の一人北畠親房の紹介を一日かけて書く。五、六行。親房、吉田定房とならんで「後の三房」と呼ばれた万里小路宣房の子の藤房の年齢がノートに書きもれていたので年頭の各頁に書き込む。オスプレイが空気を叩くようにして住まいの上を…

2023年11月19日 青虫の努力。

七十二枚。正中の変の頓挫でいったん武力衝突が回避されて落ち着いたかに見えた政情が、二年後に二十一歳の邦良皇太子が薨去し、幕府の斡旋で持明院統の後伏見上皇の皇子量仁親王が立坊したことで俄に緊迫する。今上の後醍醐天皇はみずからが下した内旨をか…

2023年11月17日 うまく書こうという思い違い。

七十枚。正中の変後の正成雄伏のとき。このころの正成の財力がよくわからないが、阿弖川荘の地頭職、若松荘の預所職、赤坂から千早へかけての押妨地からのあがりなどを合わせても千石あったかなかったか、それくらいかとおもえるが、それでどれくらいの兵力…

2023年11月15日 初雪や雪降るごとく書く

六十九枚。書き始めて二ヶ月、まだ「起」の半分も終わっていないので、毎日万能一丁担いで山へ登って畠を開拓しているような気持ちで書き継ぐ。一日の過半はホーム炬燵に膝を入れて坐った姿勢でいるので腰が曲がりつけて痛む。本棚の高いところにある本をと…

2023年11月13日 宿痾のない小説はつまらない。

六十七枚。二章三分の一書き終える。元享四年九月十九日に起こった政変を正中の変と呼ぶのは、この年十二月に改元があって正中となり、そのあとも政変の事後処置が続いたからで、だから正中元年は実質二十日余しかなくて正中二年になる。その正中二年間に京…

2023年11月11日 十一月のまぼろしの節句。たぶん昔の冬至のような趣旨があったのでは。

六十五枚。あと二枚ほど足掻いて二章の三分の一書き終え。実存を標榜しながら心理的描写をできるだけしないという方針はかなりきついのだが、戦記的描写との重複錯綜の煩雑を避けるためにあえてこだわる。皮肉屋が世渡りのためにあまり辛辣な言葉をつかわな…

2023年11月9日 実存のぼやき。

六十三枚。土岐頼員の自首によって正中の変が起きたのが元享四年九月十九日、その三日後の二十二日に「土岐、多治見の事により和泉家人和田助家、六波羅に駆参ずる」(和田文書)とある。(和泉の和田氏はもともとはニギタと訓んだが、南北朝のころはミキタと訓…

2023年11月7日 散文の意志と節操。

六十一枚。未明に雨をともなう突風と雷。朝方にも雷。昨日から正中の変にかかる。このあたりから登場人物が少し多くなる。武勇伝にどこまでのるか、実録的要素を探りながら見究めて書く。法螺話にもそれなりの実相の表現の意図がある。こういう戦記物はどう…

2023年11月5日 世のきな臭さをよそに、自分が何者なのかとおもう日。

五十九枚。昨日と今日、分館の除籍本の無料分配があり、昨日「大乗仏典」全三十巻のうち十六冊があったのでありがたく頂いてくる。残り十四冊も出るかも知れないので今日も行く。こういう大部なものが手に入るとおくところに困って、もう要らない本を選んで…

2023年11月3日 神は人間の運命を操るほど悪趣味ではない。

五十七枚。小説はたとえ推敲のときに削除するかも知れないとしても書くべきことを省略して書くことができない。なぜならその書くべきことを書いてこそ書き手の中で書くという事態の実存的状況が進捗するからだが、その実存的事態の行程を今少し鋭利に見ると…

2023年11月1日 老いてなお厭うこと二つ三つ

五十五枚半。昨日は兵衛尉の説明に手古摺る。三十階位にわりふられた官職の役務と正成がその官職を与えられたことの意味と事情を簡潔に書くだけのことがおもいの外難渋で、半分ほど書いて、あとは今日に持ち越す。しかし、おかげで後醍醐天皇が鎌倉幕府を打…

2023年10月30日 まぼろしならざるもの。

五十四枚。正成が式部省の徐目で授かったとおもわれる兵衛尉の官位についての説明を昨日の稿を推敲したあと書く。説明文はできるだけ短くしたいので簡潔、要をむねとする。しかし、歴史小説では説明文を欠くことができず、入念ならざるを得ないことが避けが…

2023年10月28日 ミメーシスという存在理解の隘路。

五十二枚。二章がようやく小説らしくすすみ出す。この「らしく」というのが問題で、いつの間にか安直に流れているのではないかと不安になる。安直がかならずしもわるいのではなく、類型に流されてどこかで見たり読んだりしたようなことを書いてしまうのがよ…

2023年10月26日 陽射しうく体のなかの南無

五十枚。前章後尾あたりに三枚半挿入。二章の頭で持明院統、大覚寺統の二統遞立の概略を書き、後醍醐天皇即位の経緯とその人となりを略述。今日、できれば正成の兵衛尉任官まで書く。ゆっくり書こうと心掛けていても、早くすすむと嬉しい。ようやく夏バテか…

2023年10月24日 洗い晒しや秋の青

四十六枚。二章に入るもややもすると前章の後尾へ戻りそうになる。正成の立場から南北朝の争いを見ると、正成が後醍醐天皇の南朝の忠臣としてふるまった理由がよくわかる。正成に皇統への赤心があり、尊氏になかったということではない。そのあたりをはっき…

2023年10月22日 一章を書いて手負いの傷がニケ処ほど。

四十四枚。昨日は中央図書館の廃棄本の無料配布の日だったので朝から遠征。昼前に帰ってきて、午後少し書く。疲れが出たので晩飯前に焼酎一杯を呑んで早めに寝る。今朝明け方、元享三年当時の正成の心境に関する二十枚ほどのメモを書いてから起きる。二章に…

2023年10月20日 悩めば十九、二十歳の植木に教えを乞う。

四十三枚。俊基と正成の会話書き終える。ここで章を切り上げるか、冗長になるにもせよ先の布石のために正成の甥の正氏を登場させるべきかちょっと悩む。今朝になって次章へすすむ決心がつく。次章を書きながら前章の後尾あたりへ挿入を繰り返すようなことに…

2023年10月18日 石を丁寧に拾う。

四十二枚。日野俊基と正成の会話、正成に後醍醐の人となりを訊かれて俊基がこたえるところまで書きすすむ。このあと後醍醐の意をうけてはたらく俊基の仲間のことを正成が訊くが、それにはまだはっきりとこたえられない。この時点で正成はまだ観心寺荘の雑掌…

2023年10月16日 山や谷を眺望するのとそこを行くのは違う。

四十一枚。ややペースを戻す。話し言葉に苦慮していたが、昨日、ふとこの時代に生きた世阿弥の能の伝書の語り言葉を活用することを思いつく。舞台での語りという状況が違うのでそのままではつかえないが参考にはなる。時代の霧の中にちょっとつてができた感…

2023年10月14日 籠もり家の窓から見る雲の流れ。

三十九枚。このたびのパレスチナの暴挙を指嗾したのはおそらくイラン。イランの裏にはロシアと中国がいる。ロシアと中国は世界の新秩序の構築を意図していて、ロシアのウクライナ侵攻は中国の経済的覇権の拡張に歩を合わせたものだが、その軍事作戦が思わぬ…

2023年10月12日 やんぬるかな老体の機微。

三十七枚。金剛山転法輪寺でおもいがけず山木仁衛こと蔵人右少弁俊基に会った正成は、俊基から後醍醐天皇の倒幕の趣意を告げられる。そのところを今日書く。これが元享三年のことで、創作ノートは元享四年からつくってあって、ようやくとば口までくる。何度…

2023年10月10日 まぼろしは書けども書けどまぼろし

三十六枚。「太平記」のわりと最初のほうのところで、後醍醐天皇のとりまきたちが玄慧法印という学者を招いて唐の文人韓昌黎(かんしょうれい)の文集中の「昌黎潮州に赴く」という文章の講義を聴く話がある。韓昌黎の甥で文章は不得手だが道教の仙術につうじ…

2023年10月8日 はたと思い当たる。

三十五枚。トイレにも起きず熟睡。久しぶりに夜のメモなし。頭の中が少し雲のある秋の空の如し。数日前に名無しで登場させ、越智四郎邦永の首実検をさせた金剛山寺の行者の名を空如とする。架空の登場人物も名をえると途端に生々とする。ハイデッカーの真理…