古田十駕(酒盛正)の文学日記

古田十駕の文学日記

2023年10月10日 まぼろしは書けども書けどまぼろし

 三十六枚。「太平記」のわりと最初のほうのところで、後醍醐天皇のとりまきたちが玄慧法印という学者を招いて唐の文人韓昌黎(かんしょうれい)の文集中の「昌黎潮州に赴く」という文章の講義を聴く話がある。韓昌黎の甥で文章は不得手だが道教の仙術につうじていて自然児のような気ままな生きようをしている韓湘が、学問に熱心な昌黎を揶揄して、幻術であらわした牡丹の花の中に、

 雲は秦嶺によこたわりて家いずくにかある

 雪は藍関を擁して馬進まず

と金文字で書かれた対句があるのを見せる。その対句の文句が美しく情趣つきない体形をととのえていながら、その意味がはっきりしないのを昌黎は不思議におもう。のちに昌黎は上奏した意見書で天子の不興をかい潮州へ流されるが、その流刑地へ赴く途次、雲のかかった秦嶺をのぞむあたりにさしかかったとき、日がすでに暮れ、泥濘の道が続いて馬も歩みすすまず困じていると、いつのまにあらわれたのか韓湘がいるのを見て、先に甥が見せた対句が今の自分の境遇を書いたものだったのかと悟る。「太平記」の著者はこの挿話からやや強引に我田引水するように、愚かな人の前では夢の話はしないほうがよいと言い、この講義を聴いた面々ののちの運命におもい合わせて、縁起でもないと忌みたこの面々もいささか愚人のそしりを免れないとこの挿話の趣旨をまとめているのだが、なぜかこの挿話が小説を書く私にはひどく意味深長におもえて心にとまる。

 

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 曹洞宗の禅林で破門同然となった良寛は、越後へ帰郷して世俗の中で禅の修行を全うしようとするが、そうして真摯に生きようとすればするほどこの世に生きる場を失う。良寛は身を屈め、大きな体を小さくして人の世を生き凌ぐ。ーーかくばかりうき世と知らばおく山の草にも木にもならましものを

          160円(税込み

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 釈迦牟尼(サキャ族の聖者)、仏陀(真理を悟る者)と呼ばれるゴータマ・シッダールタは、どのようにして現象としてのこの世の真の姿をとらえ、苦からの解脱という方途を見出したか。その大悟までの半生を描く。
   100円(税込み)

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 ユダヤ教から卵生したキリスト教を、ユダヤ主義者や異教徒と厳しく対決しながらローマ帝国に教線をひろげていった聖パウロを中心に、新約聖書記述者のルカやマルコをはじめとする伝道者たちの信仰を描く。
   280円(税込み)

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 明治二十三年春三十九歳で来日し、五十九歳で亡くなるまで日本を離れず、「知られざる日本の面影」「霊の日本」「神國日本」などをあらわして日本を西欧に紹介した小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)の評伝小説。
    100円(税込み)

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僕の前に道はない
僕の後ろに道は出来る
近代日本の芸術における過剰な商業主義への光太郎の生真面目な抗議は、
美しい日本の良心と言えるだろう。
日本近代詩の父、高村光太郎の生涯!
   280円(税込み)

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酒盛正全詩集
作品No.1より
雨。かってこれほど充実した一日はなかった。夕闇と
ともに空は明るみ、疲労が私を襲った。野の道の地蔵の
前に私は屈みこみ、しきりに自由とか孤独とかいうことを
考えた。濡れた雨傘は鉄鉢を持つ地蔵の腕にたてかけて
あった。夜が迫りつつあった。
   100円(税込み)

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 かく歩み、かく思い、かく書く。文学日記より拾った鳥道の粋藻。小説が生まれる前の素描。文学日記セレクション
   240円(税込み)

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