古田十駕(酒盛正)の文学日記

古田十駕の文学日記

2023-01-01から1年間の記事一覧

2023年11月1日 老いてなお厭うこと二つ三つ

五十五枚半。昨日は兵衛尉の説明に手古摺る。三十階位にわりふられた官職の役務と正成がその官職を与えられたことの意味と事情を簡潔に書くだけのことがおもいの外難渋で、半分ほど書いて、あとは今日に持ち越す。しかし、おかげで後醍醐天皇が鎌倉幕府を打…

2023年10月30日 まぼろしならざるもの。

五十四枚。正成が式部省の徐目で授かったとおもわれる兵衛尉の官位についての説明を昨日の稿を推敲したあと書く。説明文はできるだけ短くしたいので簡潔、要をむねとする。しかし、歴史小説では説明文を欠くことができず、入念ならざるを得ないことが避けが…

2023年10月28日 ミメーシスという存在理解の隘路。

五十二枚。二章がようやく小説らしくすすみ出す。この「らしく」というのが問題で、いつの間にか安直に流れているのではないかと不安になる。安直がかならずしもわるいのではなく、類型に流されてどこかで見たり読んだりしたようなことを書いてしまうのがよ…

2023年10月26日 陽射しうく体のなかの南無

五十枚。前章後尾あたりに三枚半挿入。二章の頭で持明院統、大覚寺統の二統遞立の概略を書き、後醍醐天皇即位の経緯とその人となりを略述。今日、できれば正成の兵衛尉任官まで書く。ゆっくり書こうと心掛けていても、早くすすむと嬉しい。ようやく夏バテか…

2023年10月24日 洗い晒しや秋の青

四十六枚。二章に入るもややもすると前章の後尾へ戻りそうになる。正成の立場から南北朝の争いを見ると、正成が後醍醐天皇の南朝の忠臣としてふるまった理由がよくわかる。正成に皇統への赤心があり、尊氏になかったということではない。そのあたりをはっき…

2023年10月22日 一章を書いて手負いの傷がニケ処ほど。

四十四枚。昨日は中央図書館の廃棄本の無料配布の日だったので朝から遠征。昼前に帰ってきて、午後少し書く。疲れが出たので晩飯前に焼酎一杯を呑んで早めに寝る。今朝明け方、元享三年当時の正成の心境に関する二十枚ほどのメモを書いてから起きる。二章に…

2023年10月20日 悩めば十九、二十歳の植木に教えを乞う。

四十三枚。俊基と正成の会話書き終える。ここで章を切り上げるか、冗長になるにもせよ先の布石のために正成の甥の正氏を登場させるべきかちょっと悩む。今朝になって次章へすすむ決心がつく。次章を書きながら前章の後尾あたりへ挿入を繰り返すようなことに…

2023年10月18日 石を丁寧に拾う。

四十二枚。日野俊基と正成の会話、正成に後醍醐の人となりを訊かれて俊基がこたえるところまで書きすすむ。このあと後醍醐の意をうけてはたらく俊基の仲間のことを正成が訊くが、それにはまだはっきりとこたえられない。この時点で正成はまだ観心寺荘の雑掌…

2023年10月16日 山や谷を眺望するのとそこを行くのは違う。

四十一枚。ややペースを戻す。話し言葉に苦慮していたが、昨日、ふとこの時代に生きた世阿弥の能の伝書の語り言葉を活用することを思いつく。舞台での語りという状況が違うのでそのままではつかえないが参考にはなる。時代の霧の中にちょっとつてができた感…

2023年10月14日 籠もり家の窓から見る雲の流れ。

三十九枚。このたびのパレスチナの暴挙を指嗾したのはおそらくイラン。イランの裏にはロシアと中国がいる。ロシアと中国は世界の新秩序の構築を意図していて、ロシアのウクライナ侵攻は中国の経済的覇権の拡張に歩を合わせたものだが、その軍事作戦が思わぬ…

2023年10月12日 やんぬるかな老体の機微。

三十七枚。金剛山転法輪寺でおもいがけず山木仁衛こと蔵人右少弁俊基に会った正成は、俊基から後醍醐天皇の倒幕の趣意を告げられる。そのところを今日書く。これが元享三年のことで、創作ノートは元享四年からつくってあって、ようやくとば口までくる。何度…

2023年10月10日 まぼろしは書けども書けどまぼろし

三十六枚。「太平記」のわりと最初のほうのところで、後醍醐天皇のとりまきたちが玄慧法印という学者を招いて唐の文人韓昌黎(かんしょうれい)の文集中の「昌黎潮州に赴く」という文章の講義を聴く話がある。韓昌黎の甥で文章は不得手だが道教の仙術につうじ…

2023年10月8日 はたと思い当たる。

三十五枚。トイレにも起きず熟睡。久しぶりに夜のメモなし。頭の中が少し雲のある秋の空の如し。数日前に名無しで登場させ、越智四郎邦永の首実検をさせた金剛山寺の行者の名を空如とする。架空の登場人物も名をえると途端に生々とする。ハイデッカーの真理…

2023年10月6日 北朝鮮サッカーのラフプレーについて会見したポイチの笑みは何だっのか。

三十四枚。越智氏討伐書き終える。若干要挿入。一章の三分の二を終える。昨日から少し冷えるようになって長袖を着る。寝間着も長袖にして袖が捲れないよう袖止めをつける。日常のものごとに謙虚に素直になる。今、「なぜ小説を書くのか」と問われれば、若い…

2023年10月4日 数人がかりで手傷を負った邦永を押さえつけ、髪を引っ張ってのばした首を斬る話を夜メモる。

三十一枚半。夜中に越智邦永を討つところまでのメモを何十枚かとって多少寝不足気味。先のながい話なので、できるだけ体をいたわりながら書きたいのだが、体調を見ながら書くというのはなかなかむずかしい。私の持続の志ははじめから杖を突いているような案…

2023年10月2日 待ちわびて秋そこがれる世の隅で

三十枚。まだちょっと立って書いている感じ。人は死ぬまで生きるという程度のありきたりな覚悟しかなくて、老いが少し重い。風呂上がりにのる体重計に表示される体内年齢はずっと実年齢よりひとまわり若いが、その自分の体がだいぶん草臥れているように感じ…

2023年9月30日 月見ればとまる心

二十七枚半。「土」の末尾に(昭和四十三年六月~十二月)とあって、ほぼ六ヶ月で書かれたことがわかるが、するとこの作品はひと月百枚くらいのペースで書かれたことになる。一日三枚以上、少し弱ってきた自覚のある心臓がドキドキするほどのおどろくべきペー…

2023年9月26日 またこんな人間の物語

二十五枚半。越智舘への攻撃を書き始める。正成に天才的な軍略の才があるわけではなく、悪党の実践的な才覚があるだけだということをおさえて書く。のちには勤王の志に目覚めて武士としての自覚がともなうようになるが、元享二年のこのころにはかなりあくど…

2023年9月26日 歴史の亜リアリズム。

二十四枚半。倒幕の思案を深める後醍醐天皇の夢枕に河内の楠木正成という武士が立ったというような話はまったく荒唐無稽でそれこそ話にもならないので、二人を結びつけるお膳立てをするのにいちばん蓋然性がある蔵人右少弁俊基の仮の姿として、渡辺党討伐の…

2023年9月24日 空気、水、熱、実存。

二十三枚。楠木の系譜には女のことがほとんどなく、正成の母や妻のことが皆目わからない。系譜を研究するときに母親や妻の出自が辿られればその社会的ポジションから多くのことがわかってくると思えるのだが、諸本、端からそれを諦めていて、後世に贋作され…

2023年9月22日 オン・アニチ・マリシエイ・ソワカ

二十二枚。貝吹山に詰城を持ち、その麓に二つの馬塲があって三方を丘、ひらいた一方が濠で囲まれた舘をかまえていた越智氏の兵力はどれほどのものだったのか。越智荘一荘の当知行で養える兵力など知れたもので、いろいろと計算の仕方があるが、せいぜい百人…

2023年9月20日 そのように描いたのでもそのように描けたのでもない。

二十枚半。今朝起きたときふと、湯浅勢との戦いのところの細部の描写を一、二行加筆しておきたいとおもった。具体的な案があるわけではなく、描写の不足を自覚したわけでもなく、筋立てにかかわる不可欠な記述の書きこぼしがあるともおもえない。何か霧の中…

2023年9月18日 日本文学の崖。

十九枚半。湯浅党討伐のところへ一枚半挿入する。もういちど冒頭から目をとおして加筆の要があれば加筆してから、できれば今日から越智討伐にかかる。創作ノートをつくっているときは足利尊氏からの視点を軸にして五年くらいかけて書くつもりだったが、本稿…

2023年9月16日 うちうちでひろげる大風呂敷。

十八枚。湯浅党討伐を書き終える。空行をおいてから戦後処置に短く触れて次ぎの越智討伐へむかわせる。まだ創作ノートの一頁目にも入っていないので血腥い描写は避けた。そんなシーンはあとでいくらでも出てくる。中世において近代日本社会の原型があらまし…

2023年9月14日 年輪が周密な木を柱にする。

十七枚。あと二枚ほど湯浅討伐の実戦部分の下書きを書いてあるが、どうもしっくりしない。たぶんちょっと前まで戻って書きあらためることになる。ペースのことはおいて腰を落ち着けて書きたい。まだ冒頭を書き始めたばかりで先がながいのに、こんなことで大…

2023年9月12日 藪を突いて蛇を出す。

十五枚。高野山と湯浅氏のあいだで相論のある阿弖川(あてがわ)荘押領のため安田庄へむかうところまでいちど書いたところを半分以上書き直して書き終える。今日は安田庄を救援にきた湯浅一族との戦いを書く。柔道の乱取りのような書き方になってきた。地図で…

2023年9月10日 登山隊の目的は何か。

十四枚。すでに御家人としての身分を持っている湯浅氏と越智氏を六波羅探題の要請で討つ以上、正成も朝廷なり幕府にそれなりの地位をえていなければならず、それならば正成が兵衛となったのが後醍醐天皇の倒幕に参陣したときだという説は成り立たず、湯浅、…

2023年9月8日 うじゃうじゃ。

十二枚。ただし、摂津の渡辺党、紀伊の湯浅氏、大和の越智氏討伐の命を六波羅からうけるについての楠木の素性に関しての説明のような挿入が一枚ぶんあって、もしかしたらこれを早々に削るなり書き直すなりしなければならないので、あまり書きすすんでいない…

2023年9月6日 シンプルな道具の多様な有効性。

十枚。物語の本筋の前段で早くも挿入が入り出し、予定したところまでは書きすすめなかったが、余計なことを書いている感じがしないのであまり気にならない。内容を云々する段階ではないということもある。過ぎたるは及ばざる如しとか、足りざるはなきに等し…

2023年9月4日 シテを書く楽しさ。

八枚。昨夜から雨。朝方、空調を使わず窓を開けて湿った空気をとおす。息が楽な気がする。正遠から家督を継いだ正俊が病で急逝し、子の正氏が跡目をとるにあたって叔父の正成が後見となるところまで書く。これが元享元年のことで、翌年、六波羅探題から摂津…