古田十駕(酒盛正)の文学日記

古田十駕の文学日記

2022-01-01から1年間の記事一覧

2022年11月1日 木の葉隠れに去る秋そ山辺

五百二十一枚。一昨日、白髪部王のことを書き、その追加を昨日書いたが、今朝になるとその追加部分が蛇足になって消えてしまった。昨日はひどく疲れていたので書くほうもうまくいかなかった。季節の変わり目毎にそういう日が一日くらいある。そういう日もい…

2022年10月30日 人間が売りもの買いものの世をわたる

五百二十枚。太子の正妃となった橘大郎女が男児を産み、白髪部王となる。白髪部というのは雄略天皇が子の白髪王のためにもうけた名代で、その白髪王が清寧天皇となったが、子がなかったので白髪の名を後世にとどめるため子代として諸国においたものだった。…

2022年10月28日 へのへのもへのと書く秋の空

五百十八枚。十一章の三分の一を終えたあとも太子と馬子の関係の暗転の憶測が続く。双方に表立ったうごきがないこの部分をあえて活劇ふうに書くと質量のない紙細工のようになるので前段に引き続きその関係性の変質を双方の思惑を憶測するかたちで書きすすむ…

2022年10月26日 秋深し飛鳥の都の探偵そ

五百十七枚。十一章の三分の一書き終える。このあとは太子のストレスが溜まる一方で、五年後の推古三十年に太子と膳夫人がともに身罷る。二人が突然死ぬので毒殺説があり、犯人が誰か諸説あるが、もし毒殺なら黒幕は馬子しかなく、馬子が誰かを指嗾し、その…

2022年10月24日 アケビコノハを指で突くてふ秋の怪談

五百十六枚。飢えてゆき倒れた旅人に太子が着ている衣服を与えるという有名な片岡伝説をあえて書かないでおいたが、菟道貝蛸妃の死によって太子と馬子の関係が変容してくるところまで書いて、この伝説が太子と馬子の対立構図を端的にあらわしていることに気…

2022年10月22日 人間は人間が思う以上に合理的で整合性のある生き方をする。

五百十五枚。曇り。今日、百済使と馬子の密談に続き馬子と蝦夷の関係性を書いて、明日、慧慈が高句麗へ帰国するところを書く。太子の権威を守っている外堀が徐々に埋められていく。小説は実生活と違って一行で時間が移る。しかしその間に小説の登場人物たち…

2022年10月20日 日々歩くわが道果つる秋の奥

五百十四枚。この章を今年中に書き上げたいのだが、思うように書きすゝまない。天気がはっきりせず書くほうも捗らない秋の日は深い峡谷へ傾いている丘の斜面を下っていくような気分になる。妙に澄んだ心持ちだが、歩いて下れるが、上って戻ることのできない…

2022年10月18日 わが神は情なり。

五百十三枚。隋の国情を探ってきた遣隋使が百済の使いをともなって七月に帰朝。馬子の邸で密談。すでに太子は朝庭の中枢から外されている。太子の師だった高句麗僧慧慈もこの年の十一月に祖国に帰国する。こうして太子の権力の鎧が一枚々々剥がされていく。…

2022年10月16日 生き延びているという感じ。

五百十二枚。書くときに変に技をかけると、あとで推敲のときにそのあざとさが鼻について到って苦労する羽目になる。わかっていてそれでも繰り返すのは、その動機にそれなりの理由があるからだろう。それがはからず書き手の態度についての自戒ともなるのでこ…

2022年10月14日 三冊の本持ち重る秋

五百十一枚。定期健康診断とインフルエンザワクチン接種で昨日一日潰れる。隋の三回目の高句麗遠征の最中の推古二十二年夏に第三次遣隋船が百済経由で派遣される。前の二回の遣隋使は太子が隋との国交をひらくために出したが、このときは馬子が隋の国情を探…

2022年10月12日 「それはどういうことだ?」とソクラテスは問い続けた。

五百十枚。太子と馬子の関係が暗転するところを何とか書いたが、あまりきつかったので、毎日冒頭から数枚ずつやって三百枚ちょっとやり終えている推敲を一昨日、一昨昨日とするのを忘れていることに昨日気づいた。昨日二枚半ほどやったが、目が泳いでいるよ…

2022年10月10日 実存的絶好調。

五百九枚。目の前を捌くのに青息吐息なのだが、この状況は実存的にはわるくない。書くという行為とその思考の関係性に緩みやズレがないから青息吐息になる。しかし苦しいことには違いなく、肩が凝る。一昨日、古書市へ行って買った本を肩掛けのバックに入れ…

2022年10月8日 卜伝が刀忘れて無刀取り

五百八枚。昨日書いたところの一部にちょっと迷いがあって、今日その部分を書き直し。午後は出かけるので午前中にやる。あとのことはそれを終えてから考える。小説を予定調和にしない。かと言って奇想天外を求めるわけではなく、人間の存在の状況を予断なく…

2022年10月6日 この年の命ぞ惜しむらく秋

五百七枚。コロナ完治のあともしばらく体調がすぐれなかったが、ようやく復調したように思える。三キロ落ちた体重はまだ戻らない。全体の三分の二書き終える。七百枚ちょっとだが、書き終えてから何回かする推敲で一割強減る。次作の資料のリストをつくり出…

2022年10月4日 柿の柿色や美し

五百六枚。菟道貝蛸妃が亡くなった翌年、推古の実子の尾張王の娘位奈部橘大郎女が太子の正妃となる。その意味するところを今日書く。込み入っているが、あとで太子の死に直結するところなので丁寧に書く。できるだけ説明文にならないようにする。昨夜とった…

2022年10月2日 賢しい人たちが群れている

五百五枚。明け方に昨日書いたところの書き足しの挿入部分のメモ三枚を書く。今日はその挿入を先ず書いてから昨日書いたあとを書く。そのメモが三枚。下書きはまがりなりにも文章になっているが、メモは寝床で頭の中におもい浮かんだことを枕元の紙に闇の中…

2022年9月30日 酒呑めば何事なけれどただ愉し

五百四枚。推敲三百枚終える。十一章冒頭を三枚半ほど書きすすんで、ちょっと息を乱す。昨日書いた一枚の三分の一くらいしかつかいものにならない。今日はその頓挫したところから書き始める。昨晩は焼酎一杯のおかげでトイレにも起きずに眠り、メモもなし。…

2022年9月28日 目の前のことが一大事。

五百二枚。コロナワクチンの四回目接種をうけるために出かけて昨日の午後は潰れる。出かける前に三分の一枚ぶんだけ書いておいたので、今日はそれにメモのあるぶんを書き加えて半枚か一枚くらいにする。隋が高句麗に大敗したことで、隋との国交をひらこうと…

2022年9月26日 歴史の混乱期の社会的ヒステリーの話をする。

五百一枚。書き漏らしがあって、十章の末尾に挿入。十一章の後尾も多少書きすすむ。晴天。秋めいた外気が住まいの中へも入ってくる。鉢に植えてある小梅が一メートルくらいになったので植え替え期になったらどうしようかという話を昨日だか一昨日にして、そ…

2022年9月24日 卜伝は快刀乱麻の夢を捨て

五百枚。十章の後尾がのびてようやく十一章に入る。「暗転」の章に入って書くことが複層的になり、書き漏らしをしないようメモが多くなる。そのメモが寝床で書くのがほとんどなので、昼間に見ると読みづらく解読に到って手間取る。苦労の種が尽きない。目の…

2022年9月22日 一本道の紆余曲折。

四百九十八枚。今朝、布団の上で「帝紀」編纂が太子によって発議される次第のメモを九枚とる。「紀」にも「記」にも太子が発議したとは書かれていないが、当時、それを発議できるのは太子しかいない。王統のことは太子がまとめ、臣の氏族の由緒は臣の長たる…

2022年9月20日 文章の実存。

四百九十六枚。小説は資料を読み込み、創作ノートを作り、書き、書き直し、挿入し、加筆添削し、推敲して仕上げるので、何度も手を入れる機会があるように思えるが、じつは書くべきものが自分の文章になる作用は即時的なものだ。即時のその一瞬にかたがつく…

2022年9月18日 足下のクレパス。

四百九十五枚。このところ下書きをしてから本書きするというひと手間入れるやり方で筆が捗っていたが、昨日寝る前にしばらく布団の上に坐って考えごとをしていたとき、ふと、ここ数日間に書いた数枚を書き変えて前後を入れ替えなければならないことに気づい…

2022年9月16日 秋になって緑が同じ生命の人間に懐こくなる。

四百九十三枚。晴天。今日は菟道貝蛸妃の俄の不予とその死まで。そのあと隋の高句麗征討の失敗まで書いて十一章を終える。十二章は表向きは従前どおり平穏だが、貝蛸妃の死を契機に暗転した推古と太子と馬子の関係から書き始める。ゆっくりと書いているのに…

2022年9月14日 秋あれば生きられる

四百九十二枚。菟道貝蛸妃の死の直前の太子と馬子の関係のところへの加筆の下書きを今日稿に起こす。妃の死のところの下書きもできていて、もしできたらそれもあとで本書きしたいが、逆にするかも知れない。秋になって少し書きやすくなった気がする。昨日、…

2022年9月12日 身内のバカのような柿の木。

四百九十枚。もう十年以上前にスーパーで買ってきて食べた柿の種を土に埋めて育てたのがずいずん枝を張って一人前の大きさの実をつけている。種から育てた柿の木は実がならないというのは嘘で、ちゃんと生る。鉢植えなので一メートルくらいの丈だが、何十個…

2022年9月10日 何か世の中が変じゃないかという話をする。

四百八十九枚。馬子の姉で欽明の后、用明、額田部の母、太子の祖母にあたる堅塩媛の改葬まで、昨日下書きして、今日本書き。コロナを患ってから少し怠い感じが続いていきなり本書きができず、下書きのようなものを書いてからもう一日かけて原稿に起こすよう…

2022年9月8日 蟋蟀の初音澄みて聴き入る

四百八十八枚。ここ二日ほどチャンバラのような書き方。こんな書き方はながくやると到って疲れるので今日あたりでいちど気息をととのえたい。破綻はいいのだが、破綻に責任のとれない書き方は好まない。蟋蟀の初鳴きの心はそんな悠長なものではなかった。 酒…

2022年9月6日 空っぽのコップの中の秋

四百八十七枚。み月にいちどの定期検診をすませて帰ってきたところ。二枚ほど下書きがあるので、このあとそれに手を入れながら原稿に起こす。半枚、もしかしたら一枚近く書きすすめるかも知れない。このあと羽田の薬猟、菟道貝蛸妃の死を契機にした推古と太…

2022年9月4日 青々し四日目の秋

四百八十六枚。コロナの後遺症の喘息症状がだいぶんおさまり、書くほうのペースが落ち着いてくる。今日は二枚半ほど前のところに挿入する新羅使の帰国直後の慧慈と太子の会話半枚を書く。体調がすぐれなかったときに書きもらしたり書き損ねたところがポロポ…